鏡の中の僕に、花束を・・・

「おはようございます。」
玄関の鍵は開いている。僕は勢いよくドアを開けた。
「おはよう。」
庭に向かう前には、一度太田の娘のいる応接間を通らなければならない。この瞬間が楽しいのだ。ここで少しだけ雑談する。
「今日は早いね。」
「うん、社長が早く来いって言うから。納品が迫っているのがいくつかあるから、そのせいじゃないかな？」
「そっか。がんばってるんだね。ねぇ、ちょっとこっち来て。」
言われるがまま、彼女の座っているソファの前に座った。
「そこじゃダメだよ。こっち、こっち。」
彼女は自分の隣を叩いて、そこに座れと促した。
「えっ？」
こんなに側に寄るのは始めてだ。少し固くなりながら、腰をかけた。
「違うよ。違う。向こうを向いて。」
彼女側に背中を向けた。
「こう？」
「そう。あ、やっぱり肩が固いね。ここら辺なんてすごい。」
「そうなの？」
生まれてこのかたマッサージなど受けた事はない。これが凝っているものなのか、自分の体なのにわからなかった。ただ、言えるのは彼女の手は暖かく、とても気持ちいいと言う事だ。