鏡の中の僕に、花束を・・・
「と言う事で、一緒に帰ろう?」
「あ、はい。」
願ったり叶ったりだ。

不思議なものだ。とりとめのない会話が、とても楽しい。彼女も、こんな僕の話を楽しそうに聞いてくれる。今までこんな風に話を聞いてくれる人はいなかった。だから、うれしかも一入だ。
時間は駆け足で過ぎてゆく。
「私の家、ここなんだ。」
彼女の言葉に、哀しさがこみ上げてきた。楽しい時間が終わってしまうからだ。
「どうかした?」
「あ、いや、なんでも・・・。」
僕は慌てて、その場を後にしようとした。
「そっか。ちょっと上がってお茶でも飲んでく?って思ったんだけど迷惑かな?」
「えっ?」
頭の中を整理した。
「いいの?」
「うん。ダメ?」
上目遣いで、彼女は言った。多くの男はこれに弱い。もちろん、僕も例外ではない。
「ダメな訳ないよ。も、もちろん。よろしくお願いします。」
頭を下げてから、ハッとした。なんで、僕は頭を下げたんだ?何か彼女に変な印象を持たれていないだろうか?しかし、それは杞憂に終わった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
彼女も頭を下げていたのだ。
それから見合わし、笑った。
「なんで、頭下げるの?釣られちゃったじゃないかぁ。」
「そんなの、太田さんの方がおかしいよ。普通、釣られたりしないよ。」
「千代田君の方がおかしいよ。」
「太田さんだよ。」
くだらない言い合いは続いた。そんな事が楽しい。彼女と一緒なだけで楽しい。なんて、幸せなんだろう。
「いつまでも、ここにいてもしょうがないね。ウチに入ろっ!」
彼女は僕の手を取った。驚いた。けど、振り払うなんてとんでもない。僕は無意識に握り返していた。それを彼女が驚いた。そして、笑った。

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