鏡の中の僕に、花束を・・・
いい匂いだ。女の子の家に入るのは、小学校の頃、お楽しみ会の練習で、班長の片山さんの家に行った時以来だ。あの時は、いい匂いとか感じる事はなかった。それは僕が子供だったのもある。
しかし、今の僕は大人なのだ。
匂いが、それを告げていた。
「お邪魔します。」
それほど大きくない部屋だ。玄関から、すぐにベランダが見える。その向こうには、夕陽が見えていた。
「西日強いでしょ?今、カーテン閉めるね。」
「ううん、いいよ。」
僕は彼女を止めた。
「なんで?」
そのまま、二人でベランダに出た。
彼女の家は、ここら辺では割と高いマンションだ。それもあり、夕陽と僕たちの間を遮るものは何もない。一戸建てに住んでいる僕には、それがとても新鮮に映ったのだ。
「すごい、すごい。こんな夕陽はじめて見たよ。」
子供のようにはしゃいだ。
「そうかな?でも、そんな風に喜ぶなんてかわいいね。」
「子供みたい?」
「うん、子供みたい。」
彼女の家の硝子に、僕の姿が映っていた。
「ほら、いい子、いい子。」
「恥ずかしいよ。」
そうは言ったが、なかなかに気持ちいい。そしてそう感じたのは、僕だけじゃなかった。奴も感じていた。
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