鏡の中の僕に、花束を・・・
少しの間の沈黙。彼女の気配を感じながらの沈黙。気まずい。
時計の秒針の音が、妙に耳に入って来る。僕は何度も時計を見た。音は的確に入って来るのに、秒針は止まって見える。アンバランスな世界に、僕はいた。
「おまたせ。」
彼女がお茶を持って来た。
「あ、うん。ありがとう。」
てっきり、彼女は僕の前のソファに座ると思っていた。しかし、実際には隣にいる。頭の中は真っ白だ。
「どうしたの?おかしいよ?」
強張っている僕を見て言う。こうなっている理由をわかってないのだろうか。いや、わかっているはずだ。わかっていて、僕を弄んでいる。彼女の笑顔には、そう書いてあるようだった。
「ううん、なんでもないよ。」
血の激しい流れを感じる。まるで、炎が体の中を循環しているようだ。
「うそ。だって、時計ばかり気にしてるよ。」
社長が帰って来ないかと、何度も確認していたようだ。
「いや、それは・・・。」
僕は言う。言い訳なんて思いつかない。今はとにかく暴走しないように、それを繰り返し唱えた。
「なんで?」
彼女は身を乗り出して来た。少しずつ、僕へと向かってくる。
唾を飲み込んだ。そして、息を止めた。
「どうして答えてくれないの?」
「・・・。」
彼女は、更に迫ってくる。
「えっ、あっ、いや・・・。」
再び息をした。だから、少し話せた。
「ねぇ?」
話せない。しかし、今度は僕のせいではない。彼女唇が、僕の口を塞いだからだ。
「ん?!」
駆け巡る血は、一気に僕の一部へと向かう。それは本能の目覚めを示す結果になってしまう。体が勝手に動いた。彼女の胸を、僕の左手が掴んでいたのだ。
「あっ・・・。」
彼女から声が漏れた。
ますます本能は加速する。
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