鏡の中の僕に、花束を・・・

「早く休みにならないかな・・・。」
自分の部屋で、携帯を眺めながら呟いた。こんな風に思ったのははじめてだ。仕事と言っても、好きな事の延長にすぎない。社長もいい人だ。だから、特に嫌だと言う所もない。それなのにこんな気持ちになるなんて、不思議でならなかった。
「うわっ。」
携帯の着信音に驚いた。
液晶に名前が表示されている。液晶には、僕の顔も映っている。顔のちょうど鼻あたりに、彼女の名前があった。
「美園さん？」
確認し、電話に出た。液晶に名前が出ているにも関わらず、実感がまるでなかったのだ。
「千代田君？」
「そ、そうです。・・・どうしたんですか？」
緊張する。女の子と電話で話した事がないせいだろうか。直接話すより、全然緊張する。
「ごめん、忙しかった？」
つっけんどんな言い方になっていたのだろうか？彼女が、そんな事を言った。僕は慌てて、否定した。
「そんな事ないです。暇で、暇で、今も何しようか悩んでたくらいです。」
「大袈裟だな。」
彼女の声から、明るさを感じられた。
「そんな大袈裟だなんて。いつも暇すぎるから、ついつい真剣に暇つぶし考えちゃうんです。」
勢いで続けたが、後悔した。これじゃ趣味も何もない面白くない男になってしまう。
「そんなに暇なんだ？」
やっぱり軽蔑された。
「あ、いや、なんと言うか。」
「だったらさ、今から家に来ない？」
時計を見た。十二時を回っている。終電は終わってしまっている。車はおろか、原チャリの免許すら持っていない僕には、彼女の家に行く手段がない。
「行きたいんですけど・・・。」
「けど？」
「電車終わってるから。」
「そっか。」
彼女は残念そうだ。