鏡の中の僕に、花束を・・・
「意外に侮れないね、これ。」
その頃、美園はミラーハウスの難しさを痛感していた。鏡が貼ってあるだけの簡単な迷路、それくらいにしか考えていなかったが、実際はどうだ。なかなかに難しい。出口の見当がつかなかった。
右に、左にと鏡を触りながら、ゆっくりと歩く。
「なんか歩きづらいなぁ。」
鏡のせいで、奥行きがつかめない。だからだ。軽くつまずき、倒れかけた。そんな美園を誰かが支えてくれた。
「大丈夫?」
「千代田君、もう追いついたの?!」
美園は驚いていた。
「まぁね。こう言うのは得意だから。」
笑った。
「そうなんだ。・・・さっきとは別人みたいだね。」
「そうかな?」
また、笑った。
「残念だなぁ。千代田君が来る前に、外に出ようと思ってたのに。負けちゃった。」
「そんな意地悪しようとしてたの?ひどいなぁ。」
「ごめんね。」
美園はかわいく舌を出した。所々、ツボを押さえてくる。男心を実に理解していた。
「いいよ。それよりさ、ここ誰もいないでしょ?」
透き通った瞳で美園を見た。
「な、何?」
美園の鼓動の高鳴りが、まるで伝わって来るかのようだ。頬を赤らめ、かなり照れているようだ。
「せっかくだからさ、しばらくここで話でもしない?もう乗り物は勘弁だから。」
「そ、そっか。うん、いいよ。」
「ありがと。」
二人はその場に腰掛け、話をし始めた。
「あれ?」
美園が言った。
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