鏡の中の僕に、花束を・・・
目印がなくなったら鏡を叩く。僕はそうして、出口を目指していた。バンバンと響く音。もし、他に人がいたら、ここまで派手に出来なかっただろう。
「しかし、外から見た時はそんなに大きくなかったんだけどなぁ。いったい、いつになったら出口に出れるんだよ。」
もう、かなり長い時間ここにいる。これはデートと言うのだろうか。そんな疑問が頭をかすめた。
バンバン。
また、鏡を叩いた。
「千代田君?」
誰かが後ろで、僕を呼んだ。
「ん?」
振り返ると、そこには美園がいた。
「まだ、中にいたんだ?」
「あ、うん。」
何か気になる言い方だ。でも、その理由がわからなかった。
「変なの。さっきは簡単に、私を見つけたのにね。」
何の事だ?
「見つけた?僕が?」
「何トボけてるの?イヤだな・・・。」
顔を赤らめ答えた。その様子から、どう見ても嘘をついているようには見えない。僕の知らない僕と何かあったのだ。
つまり、奴はここにいた。
「やっぱりバレたか。」
奴の事を話しても、彼女は信じないだろう。それに変に怖がらせても、何も解決にはならない。適当にごまかすのが一番だ。
「当然だよ。」
彼女は僕の側に寄り添ってきた。さっきまでと雰囲気も違う。いったい奴と何があったのだ?
「でも、ホント変だよね。さっきは簡単に私を見つけられたのに、まだ出られないなんて。私はとっくに外に出たと思ってたよ。」
「さっきは偶々だよ。」
「なんだ。私に逢いたくてがんばってくれたんじゃないのか。」
少し拗ねた。
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