鏡の中の僕に、花束を・・・
冷たい視線。まさにそれだ。まっすぐに前を見ていたなら、絶対に気づいただろう。しかし、僕の視線は前にはない。眼に映るのは、彼女の顔だ。
それをわかっていたからだろうか、冷たい視線の後、奴は笑った。ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「クックックッ。」
電車の音は喧しく、僕にも、彼女にも、僕の周りにいた誰にも届いていない。
「クックックッ。」

それは一瞬の事だ。彼女が一気に遠ざかる。理由はわからない。足に力が入らない。
“なんだ!?”
そう思った時には、足元に何もなかった。僕はホームから落ちていたのだ。
激しいブレーキの音。叫び声も聞こえてくる。彼女の顔は青ざめ、それから両手で顔を覆った。僕が見えたのは、そこまでだ。そこから先は真っ黒なそして氷のように冷たい世界しかなかった。
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