( 新撰組 * 恋情録 )

 それからどれ程の時間が流れただろう。
 白く細い弓形の月は大きく傾き、
 夜明けが近い事を示している。



 「 ―‥土方さん、入りますよ? 」



 再び筆を握る気にもなれず
 壁に背を預けて思考に没頭していた
 俺は、誰かの控えめな声で顔を上げた。



 「 あ? 」



 俺が許可を出すよりも先に
 声色とは異なる傲慢な態度で
 襖を引き、俺の目の前に立ったのは



 「 ‥何してやがる 」



 つい数刻前に目を覚ましたばかりで、
 お世辞にも万全とは言えない
 体調である筈の総司。



 「 病人は大人しく寝てろ。
       今何刻だと思ってんだ? 」



 俺が睨み付ければ、総司は
 間髪入れずに笑顔で言った。



 「 それはこっちの台詞ですよ 」

 「 あ? 」

 「 此処の所、毎晩随分遅くまで
  仕事したり、凜咲の看病したり、
  その上私の事だって気に掛けて
  看に来てたみたいじゃないですか 」

 「 ‥それがどうした 」



 総司の笑顔が、徐々に黒いものへと
 変わってゆく。



 「 どうした、じゃないでしょう。
  貴方のしてる事は、まるで
  凜咲と同じです。これ以上
  続ければ、貴方も体調を
  崩してしまう。止めてください 」

 「 ‥俺はそんなに やわじゃねぇよ 」

 「 隈、酷いですけど。折角の
        色男が台無しですよ? 」



 最早総司の目が笑っていないが、
 俺は平静を装って抵抗を続ける。
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