( 新撰組 * 恋情録 )
* * *
酷く可笑しな現象と 部屋を
追い出された経緯を思い出した俺は、
凜咲を抱き締める腕に より一層
力を込める。
「 土方さん、痛いよ‥? 」
困惑を含んだ凜咲の声色に
少しだけ冷静さを取り戻した俺が
「 ‥悪い 」
呟くように言って力を緩め、
閉じていた瞼を僅かに開けた時だった。
「 ッ‥?! 」
先程まで頭を埋めていた筈の
凜咲の華奢な体が、陽炎の様に
大きく揺らいだ刹那―‥
. . .
消えた。
「 り‥ッ 」
呼吸を乱しながら空虚な視線の先に
手を伸ばす。
虚しく空を切るだけと思われた
その掌は、けれど確かに次の瞬間
再び現れた凜咲の細い肩を掴んでいた。
「 痛‥っ 」
「 ッ! わ、悪い‥ 」
まただ‥、と俺は 目を擦りながら
謝罪の言葉を口にする。
「 だ、大丈夫!どうしたの‥? 」
「 ‥何でも、ねぇ 」
. . . . .
また凜咲が消える幻覚―‥
いや、最早幻覚という言葉では
済まされないのではないか。
. . . .
初めて凜咲が揺らいだ昨日の夜。
脳裏を過ぎった嫌な疑念―‥
( 凜咲が、此処から‥この時代から、
消えて無くなろうとしてやがる‥?! )