( 新撰組 * 恋情録 )

 正直、さっぱり訳が分からない。

 あたしの背中に何か付いてたのかな、と
 脱衣所で確認してみたものの
 特に異物は無く。

 だったら一体、彼の異変の原因は
 何だと言うのか。



 「 ‥嬉しかった、のにな‥‥ 」



 汗を滲ませる位、急いで部屋に
 来てくれたことが。

 まるで恋人にするみたいに、
 強く強く抱き締めてくれたことが。



 ―――だからこそ、急に態度の
 変わった土方さんが心配で、悲しい。



 もう一度温もりが欲しいのに、
 自分から触れる事さえ躊躇われる。



 どんどん暗くなっていく思考に
 もう一度溜め息を零した時、" 恋人 "
 という単語で、ある事を思い出した。



 ( そう言えば、あたしの着物―‥ )



 前にも浮かんだ事のある疑問。
 それは屯所生活初日のこと―‥



 『 ほら、風呂の道具用意して
   やったからさっさと行って来い。 』



 不器用な優しさの詰まった台詞と共に
 差し出された物の中にあった着物が
 きちんとした女物で、あたしは
 驚いたんだっけ。

 そしてその理由を考えた時に
 思い至ったのが、土方さん恋人説。

 あの時感じた胸がきゅっと狭くなる
 ような痛みの正体が、今なら分かる。

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