( 新撰組 * 恋情録 )

 あたしは既に土方さんに惹かれてて。
 願わくば恋人にだってなりたくて。

 だから、居るかどうかも分からない
 土方さんの恋人にちょっぴり嫉妬して。
 自分がその場所に立てない事に
 ちょっぴり悲しくなったんだ、って。





 「 ‥‥‥好き、 」





 口に出せば、もっと愛しくなる気持ち。



 「 ‥確かめなきゃ 」



 もう完全に気付いてしまったから。
 彼の事を想っている自分に。



 だから、彼に抱き締められる資格が
 あたしにあるのかどうか―‥

 今すぐ、確かめたい。



 「 ‥よし、 」



 気合いを入れるみたいに呟いて、
 湯舟から上がり 色濃く和の雰囲気が
 漂うお風呂を後にする。

 脱衣所を出れば廊下には、夏場には
 珍しい涼しげな風が吹き込み、
 あたしの背中を押した。

 土方さんの様子が変なのは
 分かってるけど、聞かないと
 納得行かない気がしてくるから。



 ―――あたしは走る。



 お風呂上がりの清潔な体に
 再び汗が滲むのも構わずに。

 何処かで彼が否定してくれる事を
 強く望みながら。
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