( 新撰組 * 恋情録 )

 「 あは、何あの反応絶対いるよね‥
  ってか彼女さん?すっごい愛され
  てる!頬なんか染めちゃってもー、
  可愛かったな土方、‥さんっ‥‥ 」



 ぱたぱたと足音を立てて駆ける廊下に
 小さく反響するあたしの独り言。
 そこに含まれる響きは、どうしても
 自嘲気味なものになってしまって―‥





 「 ‥ふ、ぇ‥‥ 」





 二つ目の角を曲がったところで、
 遂にあたしはぼやけ過ぎた視界に
 走ることを止め、壁伝いに
 ずるずると座り込んだ。



 「 うぁ―‥告げる前から失恋
  決定とか、悲しすぎっ‥‥ 」



 どうやっても涙が止まらなくて、
 あたしは着物の袖に顔を埋めた。

 あっという間に濃く色を変えた袖
 からまた香るのは、女の人の
 艶やかな匂い‥‥



 綺麗で艶やかな大人の女性と土方さんが
 並んで居る姿を、思わず頭に
 思い浮かべてしまう。



 「 ‥悔しいくらい絵になるなぁ‥ 」



 自分の呟きに、また涙が零れて。

 それを拭うこともせず、そのまま袖に
 顔を埋めている内―‥

 滲んだ視界が段々暗くなって、
 遂には全く見えなくなった。

 もう何も考えたくなくて、あたしは
 そのまま暗闇に身を委ねる。



 深い眠りに落ちる直前―‥





 「 ‥‥凜咲‥‥? 」





 あたしの名前を呼んだのは、
 誰だったんだろう。
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