( 新撰組 * 恋情録 )
>> 沖田side
咳を繰り返し 渇いた喉を潤しにでも
向かおうかと、気紛れで部屋を出た
その瞬間。足にこつんと当たった
柔らかいような硬いような―‥
ほのかにあたたかい何か。
「 ん‥? 」
ふと足下に目をやれば、視界に映った
のは座り込んで腕に顔を埋めてる
見慣れた誰かさん。
「 ‥‥凜咲‥‥? 」
呼び掛けに応える声はなくて―‥
俺は屈み込み、腕の隙間から彼女の
顔を覗き込む。
「 寝てる‥ 」
微かに漏れる規則的な吐息と、
頬を軽くつついても開かれる
気配のない瞼。
「 もー、こんなとこで寝たら
また風邪引いちゃうでしょ‥ 」
仕方ないなあ、と病み上がりの腕にも
軽く感じる華奢な体を両手で
抱え上げると、細い腕に隠されていた
ちっちゃな顔が露になる。
「 ‥‥え、 」
―――その小さな顔を見つめた時
思わず目を疑ったのは、頬に光る
ひと筋の―‥涙の痕を見付けたから。
「 ‥‥なんでまた泣いてるの、君は 」
だって、君はさっきずっと待ち望んでた
らしい土方さんと会えたはずじゃない。
笑顔になるならまだしも、泣いてる
なんて意味がわからないよ、ねえ。
「 ‥‥‥ 」
とりあえず、と
俺は凜咲を部屋に運び込んで
布団にそっと降ろした。‥そして。
「 ‥凜咲を泣かせたのが土方さん
だっていうなら、遠慮する
必要はどこにもないよね―‥? 」
ぽつりと呟いたその声は、誰にも
届くことなく―‥
二人きりの部屋の空中に溶けた。