( 新撰組 * 恋情録 )

 「 只今上がりました 」

 そっと道場の中へ入ると
 原田さんが振り返ったが、

 「 お、凜咲 上がった‥か‥ 」

 何故かそう言ったきり 目を見開いて
 固まってしまった。

 「 え、ちょ‥原田さん? 」

 駆け寄って目の前で何度か
 手を振ってみたが、

 ( だ、だめだ‥反応がない‥ )

 どうして? と首を傾げていると
 平助がこちらへ向かってきた。

 「 お―い、凜‥咲‥ 」

 そして、原田さんと全く同じように
 途中で固まってしまう。

 「 えぇえっ?! 」

 全くもって、意味がわからない。

 ( あたしの顔、なんかついてる‥?! )

 確認しようにも、鏡が無い。
 あたふたしているあたしに近寄る
 もう一つの影。

 「 ‥湯上がり美人とは恐らく、
  君のような女性を指すのでしょうね 」

 淡い微笑と共に びっくりするような
 台詞を吐き出したのは、
 あたしなんかより
 よっぽど美人な沖田さん。

 「 ゆ、湯上がり美人‥?! 」

 「 濡れた髪やほんのり上気した頬、
   潤った唇等が 元よりの魅力を
      更に引き出すそうですよ。 」

 人差し指を軽く唇に添えて
 何処か妖艶に微笑む。そんな貴方に
 言われても、説得力は皆無です。

 「 最初から美人だとは思ってたけど
  なんか色気が強調されたっつ―か‥ 」

 いつの間にかフリ―ズ状態から戻った
 原田さんの言葉を 意外な人物が
 引き継いだ。

 「 多少はマシになった程度だろ。
    この餓鬼んちょに色気なんざ
       端っからねぇんだからよ 」

 ‥それも、最悪な形で。

 ( 何よ、それ‥ )

 折角、優しいと思ったのに。
 幕末も悪くない、って思ったのに。

 抑えようのない怒りや哀しみが
 取り留めもなく溢れ出る。

 「 ‥土方さんの馬鹿!! 」

 どうしてこんなに悔しいのか、
 どうしてこんなに哀しいのか。

 自分の感情もよくわからないままに
 あたしは道場を飛び出した。
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