( 新撰組 * 恋情録 )

 さっきお風呂に入った時
 近くだからついでに、と教えてもらった
 道順通り、あたしの部屋―‥もとい、
 土方さんの部屋へ向けて走る。

 情けないけど、広い屯所の中で
 あたしが知っている場所は
 お風呂と道場、そしてその部屋
 くらいしかなかった。

 「 はぁ、はぁ‥ 」

 ( 今日は走ってばっかりだ‥ )

 なんてぼんやりと思いながら
 襖を開けて中に入る。
 微かに炭の匂いがした。

 予め引いてあった布団に
 勝手に包まって顔を埋める。
 それから、声を殺して泣いた。

 自分でも なんで涙が出るのかなんて
 わからなかった。

 ( あたしって、こんなに
         泣き虫だったっけ‥ )

 現代で泣いた記憶なんて、
 数える程しかない。

 なのに。

 ( どうしてよ‥っ )

 どうしてこんなに、
 貴方を想うだけで涙が出るんだろう。

 「 ‥おい、入るぞ 」

 ―‥どうして。

 ( あぁそっか‥幕末には鍵なんて
    ないから、簡単に入って
   来れちゃうんだ‥しまったなぁ‥ )

 貴方の声を聞いただけで、
 こんなに胸が狭くなるんだろう。
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