( 新撰組 * 恋情録 )

 「 ‥来ないで 」

 涙を堪えて拒絶する。

 「 断る 」

 なのに土方さんは、至極あっさりと
 部屋へ踏み入ってくる。

 「 来ないでって言ってるのに‥! 」

 きっ、と睨んでみたけれど
 鬼の副長には全くもって効果なし。

 「 ちっとも怖くねぇよ 」

 そう睨み返されて終わりだった。

 感情はぐちゃぐちゃ。

 ( もうやだ‥政宗様に会いたい‥ )

 そうだよ神様、どうしてあたしを
 戦国時代に飛ばしてくれなかったの?

 「 どうしてこの時代なの?
          こんなことなら‥ 」

 こんなに苦しい思いをするくらいなら。

 「 戦国時代に飛ばされたかった! 」

 きっと政宗様は、あんな意地悪なこと
 言わない。中途半端に
 優しくしたりしない。

 「 ぎゃあぎゃあうるせぇ、落ち着け 」

 相手が怒ってる時くらい、
 上から目線じゃなくなってくれる。

 「 ‥っ 」

 ―‥暴れるあたしを
 押さえ付けようとして、
 失敗して倒れ込んで来たりしない。

 あたしの目の前には、頬を染めて
 視線を逸らしてる、悔しいくらいに
 整った顔。

 「 ‥悪かった 」

 吐息が顔にかかる距離で
 囁かれる謝罪の言葉。

 ( あぁ、やられた―‥ )

 拝啓、現代の皆様。
 あたし凜咲は、戦国時代よりも
 幕末が好きになってしまったかも
 しれません。

 それも幕末を駆けた新撰組、鬼の副長
 土方歳三のことが、好きで好きで
 たまらないかもしれないのです―‥
< 25 / 117 >

この作品をシェア

pagetop