( 新撰組 * 恋情録 )
「 ‥いただきます 」
まだ土方さんの手の感触が残る右手と
左手をそっと合わせてから、
少し冷めてしまった夕食に箸を伸ばす。
( ‥あ、おいしい )
そういえば、と 明日からご飯作りも
自分の仕事になることを思い出し、
味付けなどを確認しながら
食べ進めて行く。
( 隊士さん好みの味で作れるかな‥? )
そう思うと、明日が少し心配になった。
『 ごちそうさまでした―! 』
威勢の良い大声が屯所中に響き渡り、
夕食の終わりを告げる。
あたしは出来る範囲で
片付けを手伝った後、部屋へ戻った。
襖には、机の上で熱心に
筆を走らせているらしい
土方さんの影が映し出されている。
遠慮がちに襖を開くと
彼は顔を一瞬こちらに向けただけで、
すぐ机に向き直ってしまった。
「 布団は引いておいた 」
だからさっさと寝ろ、と
言わんばかりの口調。
「 土方さんは寝ないの‥? 」
近寄りながら尋ねる。
「 仕事が溜まっちまったから
せめてこれを終わらせてから寝る 」
筆を止めずに答える横顔は、
新撰組副長そのもので。
「 そっか‥ 」
としか言えなくなってしまった。
「 おやすみなさい 」
無理に笑顔を作って布団に潜り込む。
「 あぁ、お休み 」
応えてくれたことに安心しつつ
あたしは寂しさを消せないままだった。