( 新撰組 * 恋情録 )

 「 ‥いただきます 」

 まだ土方さんの手の感触が残る右手と
 左手をそっと合わせてから、
 少し冷めてしまった夕食に箸を伸ばす。

 ( ‥あ、おいしい )

 そういえば、と 明日からご飯作りも
 自分の仕事になることを思い出し、
 味付けなどを確認しながら
 食べ進めて行く。

 ( 隊士さん好みの味で作れるかな‥? )

 そう思うと、明日が少し心配になった。

 『 ごちそうさまでした―! 』

 威勢の良い大声が屯所中に響き渡り、
 夕食の終わりを告げる。

 あたしは出来る範囲で
 片付けを手伝った後、部屋へ戻った。

 襖には、机の上で熱心に
 筆を走らせているらしい
 土方さんの影が映し出されている。

 遠慮がちに襖を開くと
 彼は顔を一瞬こちらに向けただけで、
 すぐ机に向き直ってしまった。

 「 布団は引いておいた 」

 だからさっさと寝ろ、と
 言わんばかりの口調。

 「 土方さんは寝ないの‥? 」

 近寄りながら尋ねる。

 「 仕事が溜まっちまったから
  せめてこれを終わらせてから寝る 」

 筆を止めずに答える横顔は、
 新撰組副長そのもので。

 「 そっか‥ 」

 としか言えなくなってしまった。

 「 おやすみなさい 」

 無理に笑顔を作って布団に潜り込む。

 「 あぁ、お休み 」

 応えてくれたことに安心しつつ
 あたしは寂しさを消せないままだった。
< 27 / 117 >

この作品をシェア

pagetop