( 新撰組 * 恋情録 )

 [ 土方side ]

 あれから二刻ばかりが過ぎ、
 俺の仕事にもようやく区切りが付いた。

 軽く伸びをして 凝り固まった
 体をほぐし、ふと後ろを振り返る。

 「 ‥良く寝てんじゃねぇか 」

 意外にもあいつはきちんと
 眠れているようで、時折規則正しい
 呼吸音が聞こえてきた。

 ( 不思議な奴‥ )

 未来から来た、とか
 間者じゃない、とか

 普通なら俺は信じない。

 例え目の前で泣かれたとしたって
 嘘泣きだろうと践んで
 容赦無く拷問に掛ける。

 それが、" 鬼 " である俺の仕事―‥

 なのにどうして、
 鬼の仮面を被り切れなかったのだろう。
 得体の知れない " 凜咲 " という女を
 新撰組に引き入れてしまったのだろう。

 考えても考えても、
 答えの出る事の無い問い。

 ( 涙に免じて? 何甘い事
          言ってやがんだ? )

 汚れ無い瞳、涙―‥

 相手が不逞浪士で有ろうと、
 長州の敵で有ろうと。
 一度は背中を預け合い、
 共に闘った仲間で有ろうと。

 新撰組に害を成した者は
 徹底的に斬り伏せてきた。

 血生臭い光景を見慣れてしまった
 俺の汚れた瞳には、
 あいつのそれが 「 羨ましい 」
 とさえ映った。

 ( これから先、もっと血生臭い光景を
  見せちまうかもしれねぇってのに‥ )

 それでも。
 手放せなかった。

 「 此処に置いて下さい! 」

 と 頼まれた訳でも無いのに。

 「 出て行け 」

 とはどうしても言えなかった。

 すぐ泣きやがるし、方向音痴だし。
 俺の事すぐからかうし、ぎゃあぎゃあ
 うるせぇし。

 ‥なのに憎めない、目が離せない。

 この感情の名前はなんだ?





 " 恋情 "





 ( ‥まさかな )

 出会って半日。
 そんな感情が芽生えるには、
 あまりにも早い。

 「 有り得ねぇ 」

 そう呟き、首を緩く振ってから
 俺は浅い眠りに着いた―‥

            ・・→ 凜咲side
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