( 新撰組 * 恋情録 )

 ( 確かこっち‥ )

 昨日の夕食時、
 明日は自分が朝食当番だから、と
 斎藤さんの教えてくれた道順通り
 廊下を駆け抜けて行く。

 それでも朝早い時間だから、
 なるべく足音が煩くないように
 注意した。

 無事調理場へ辿り着き、
 暖簾をくぐって中に入る。

 「 おはようございます! 」

 既に中で準備をしていた斎藤さんに
 声を掛けると、

 「 ‥お早う 」

 そう小さく返事が返ってきた。

 よし、と気合いを入れ、
 調理台に置いてある朝食メニュ―に
 一通り目を通す。

 ( これなら割と簡単に出来そう‥かな )

 さっそく調理に取り掛かろうとするが、
 ここは自分の家じゃない。
 道具の置き場所もわからないし、
 使える調味料なんかも
 限られているみたいだ。

 最初は取り敢えず斎藤さんに任せて
 様子を見つつ、徐々に慣れよう。

 そう思って彼の邪魔にならない
 場所に立つ。

 ―‥斎藤さんの手捌きは、
 意外な程に良かった。

 何度も当番を経験している
 からなのか、元々料理が得意なのか。

 とにかく無駄無く丁寧に
 調理を進めて行く。

 故に観察もしやすく、あたしはすぐに
 大体の物の置き場所等を
 把握することが出来た。

 「 じゃあお味噌汁は、
         あたしが作りますね 」

 「 ‥任せて構わんか 」

 「 はい! 」

 丁度そんなやりとりをし終えた時、
 暖簾の隙間から土方さんが
 調理場を覗いた。

 「 ‥副長、如何なされましたか 」

 「 見てるだけだ。構わず続けてくれ 」

 「 ‥御意 」

 ( ほんとに来た‥ )

 気合いを入れ直して、
 調理に取り掛かる。

 そして数分後、特に失敗も無く
 味噌汁は完成した。
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