( 新撰組 * 恋情録 )

 「 できた―‥! 」

 ふぅ、と息を吐き出しながらそう言うと
 既に他の調理を終えていた斎藤さんが

 「 ‥では、運ぼう 」

 と 軽く微笑んでくれた。

 ( 斎藤さんが、笑った―‥! )

 きっとあたしの頬は
 薄紅く染まっているだろう。
 驚きのあまり口をぱくぱくさせていると

 「 ‥どうした?早く行くぞ 」

 と、首を傾げられてしまった。

 ( 無自覚‥! )

 斎藤さんって、女泣かせだ絶対。

 微熱を内包した頬を軽く叩き、
 気を取り直して動き始める。

 お玉杓子に掬った味噌汁を
 お椀に入れようとした所で、
 誰かに腕を掴まれた。

 「 痛‥っ?! 」

 大して痛かった訳でも無いのだけれど、
 思わずそう口走ってしまう。

 驚いて顔を上げるとそこには、
 何故か不機嫌な顔をして
 あたしの腕を掴んでいる土方さん。

 「 ひ、土方さん‥? 」

 「 寄越せ 」

 ただ、一言。
 苛々した口調でそう言うと
 彼はお玉杓子を自らの口に
 持って行く。

 あたしは呆気に取られて、
 ただその様子を見ている事しか
 出来なかった。

 「 熱‥ッ 」

 そして、土方さんのそんな声で
 我に返る。

 「 大丈夫?! 」

 慌てて冷やす物を探そうとしたのだが
 また腕を掴まれ、引き止められる。

 「 ‥い‥ 」

 「 え? 」

 いつもは はっきりと聞き取り易い
 彼の声が、聞き取れなくて焦る。

 「 ‥味噌汁、旨い。 」

 「 !! 」

 形の良い眉をしかめて
 舌の痛みに耐えながらも、
 土方さんは確かにそう言った。

 それだけであたしの顔は、さっきと
 比べ物にならない程の熱を帯びる。

 「 ほ、本当‥? 」

 「 ああ 」

 不機嫌な調子はまだ抜けてない。
 だけど、「 旨い 」 と言ってくれた事が
 ただ嬉しくて、そんなのは
 気にならなかった。

 「 ありがとう土方さん 」

 真っ赤になった顔を隠したくて
 あたしは俯き、またお玉杓子を
 手に取った。
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