( 新撰組 * 恋情録 )
「 ‥え 」
おかしい。
踏み込みの足音は 確かに一回。
だけど、風を斬るような―‥
いや、素早く突くような。
ヒュン、という音が 三回聞こえた―‥?!
――沖田さんの剣先は、あたしの
喉元寸前で止められていた。
何が起きたのかちっともわからなくて
へなっと足の力が抜ける。
「 ‥お、沖田総司、一本! 」
僅かに遅れて審判の声が響き、
その瞬間 わっと喧騒が押し寄せた。
「 ば‥っ 総司、てめぇ!
[ 三段突き ] まで出しといて、
何が手加減だ馬鹿野郎! 」
「 凜咲、大丈夫か?! 」
沖田さんに駆け寄る原田さんの
怒ったような焦ったような声。
あたしに駆け寄る平助の
心配そうな声。
そのどちらも、あたしの耳には
届かなかった。
「 三段、突き―‥? 」
唯一耳に残ったのは、その単語のみ。
「 ‥三段突きっていうのはさ、
総司の得意技で―‥踏み込みの
足音が一度しか鳴らないのに、
その間に三発の突きを繰り出す
っていう代物なんだよな‥ 」
平助の発した言葉は、どこか
憧れのような響きを伴って聞こえた。
( これが‥新撰組一番隊組長、
沖田さんの腕前‥ )
今更ながら手が震えてきて
あたしは竹刀を取りこぼした。
「 でも凜咲さぁ、あの総司に 三段突き
まで出させるなんて‥やるじゃん! 」
ぽん、と頭を叩く平助の声が優しい。
何が やるじゃん! なのかは
よくわかんないけど‥
「 あの、沖田さん! 」
原田さんにお説教を喰らっていたらしい
沖田さん。
「 ‥ありがとうございました! 」
頬を膨らませて振り向いたと
思ったら、何故かぷっと吹き出した。
「 そういえば、礼がまだでしたね。
ありがとうございました 」
そしてそのままくすくす笑いながら
歩み寄ってくると、
あたしの耳元に口を寄せた。