( 新撰組 * 恋情録 )

 「 ‥ありえない、ありえない! 」

 " タイムスリップ "

 脳裏に浮かんだ仮説を打ち消す。

 ( そんなわけない‥でも、
    だったらどうしてあたしは
         こんな所に居るの? )

 映画村にでも迷い込んだのかと
 思うくらい、それは想像と違わぬ
 幕末の風景だった。

 行き交う男達の殆どが 左腰に刀を
 差している。

 情報の整理が追い付かなくて、
 脳が危険信号を出し始めた。

 ( ‥やばい、頭がくらくらする‥ )

 僅かに熱を持ち始めた額を押さえ
 取り敢えず立ち上がったが、
 何か違和感を感じて自分を見つめ直す。

 ( あれ、あたし‥何で着物姿なの‥? )

 さっきまでは確か 制服を着てたはず‥

 「 おい、そこの女! 」

 「 ?! 」

 不意に声を掛けられ顔を上げると
 いかにも不逞浪士といった風体の
 男が二人、目の前に立っていた。

 「 中々美しい顔立ちだな。
         どれ、一緒に来い。 」

 ニヤニヤと笑いながら手を引っ張る男に
 嫌悪感を覚え、思わず振り払う。

 「 っ‥やめて下さい! 」

 「 あぁ? 小娘のくせに
         俺達に逆らうのか? 」

 ( 何なのこの人達‥逃げなきゃ‥! )

 その場から急いで離れようと、
 あたしは走り始めた。

 「 はぁ、はぁ‥っ‥‥きゃっ?! 」

 しかし、着物や下駄に慣れていない為、
 直ぐに躓いてしまう。

 「 こいつめ、逃げおって‥! 」

 体勢を立て直そうとした時には
 既に浪士達に追い付かれて
 しまっていた。
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