( 新撰組 * 恋情録 )

 [ 土方side ]

 ( あいつ、何やってやがる‥?! )

 総司と試合なんざ、俺でさえ
 骨折や打ち身の覚悟が必要。

 初心者がまともにやり合ったら
 大怪我どころか、下手したら死ぬ‥!

 " 止めねぇと "

 俺の判断がやっとそこに至った時には
 既に試合開始の合図がされた後だった。

 ( くそ‥っ! )

 試合を途中で止めるのは
 余計に危険が伴う。

 俺は総司が手加減を弁えている事、
 無事に試合が終わる事を願いながら
 唇を噛んでじっと試合に
 見入るしか無かった。

 総司の事、一瞬で片が付くだろうと
 践んで居たにも関わらず
 それは思いの他長引いた。

 ( あいつ、動きが素人じゃねぇ‥! )

 予想だにしない凜咲の好戦振りに
 感心した様子の総司の表情が変わる。

 「 ‥中々しぶといですね 」

 ―‥楽しげな、笑みに。

 まずい。
 総司のあの表情は、まずい―‥!

 「 そ‥っ 」

 間に合わないと分かりながら、
 渇いた声を漏らした刹那。

 繰り出された三度の突きは、
 全て凜咲の喉元ぎりぎりの所で
 止められていた。

 力が抜けたように へたっと
 床に座り込む凜咲を見て
 漸く我に返る。

 原田は総司へ。
 平助は凜咲へ駆け寄った。

 ( 俺が行くべきは、どっちだ? )

 此処へ来た目的を思い返す。

 「 ‥随分力が有り余ってるみてぇだな 」

 そんなに暇なら、桝屋襲撃に
 一役買って貰おうじゃねぇか。

 忌ま忌ましく舌打ちをし、
 総司を睨み据える。

 目に映ったのは、凜咲の耳元に
 口を寄せて楽しげに笑う総司と
 尊敬のような眼差しを向け、
 嬉しそうに微笑む凜咲の姿。

 再び沸き上がった嫉妬の炎。
 下唇を噛んで拳を握り締め
 無理矢理それを飲み込むと、
 俺は総司の元へと歩み寄った。
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