( 新撰組 * 恋情録 )

 丁度朝食を終えた頃、
 玄関口がざわつき始めた。

 ( 総司たちが帰って来たのかな‥? )

 様子を見に行ってみると、
 浅葱色の隊服の中に一人、
 商人らしき人が縄で縛られ、
 うなだれているのが見えた。

 ( 誰‥? )

 もちろんあたしの内なる疑問に
 答えてくれる人が居るはずもなく、
 あたしにはその人が奥に連行される
 様子を、ただ見つめているだけ。

 ( これ以上見てても、あたしに
      できることなんてないよね )

 と、仕方なく食堂に向かって
 歩き始めたところで、何故か五寸釘と
 蝋燭を持った土方さんとすれ違う。

 「 ひ、土方さん? 」

 喉から引き攣った声が漏れた。

 「 あ? 」

 「 それ、一体何に使うの‥? 」

 五寸釘と蝋燭を指差しながら言う
 あたしに、彼は気まずそうな
 表情を浮かべた。

 「 ‥お前は知らなくて良い 」

 そして、小さな声でそう呟いたかと
 思うと 足早にさっきの人や総司達の
 居る方へと消えてしまった。

 ( ‥変なの )

 昨日から土方さんは、何か変だ。
 どこか上の空で、よそよそしい。

 その事実が僅かに
 あたしの胸を締め付けていた。

 ( 監察方についても
        聞きたかったのにな‥ )

 こんなことなら現代に居る時
 もっと幕末について調べておけば
 良かった‥

 あたしはきゅっと胸元を掴んで、
 土方さんの消えた方角を
 暫く見つめていた。
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