( 新撰組 * 恋情録 )

 「 いっててて‥ 」

 しこたま打ち付けたであろう頭を
 押さえながら起き上がったのは、
 額に汗を滲ませた平助だった。

 「 へ、平助?!ごめんね、大丈夫? 」

 「 ん?あ‥ああ、全然平気だって! 」

 ニカッ、と笑う平助に
 ほっとしたのも束の間、あたしは
 平助の額に滲む汗が気になった。

 「 よかった‥ところでどうしたの?
   なんか、急いでるみたいだけど‥ 」

 そう言うと、平助の肩が
 ビクンと跳ね上がった。

 「 あ―っ!!忘れてた!! 」

 突然の大声に、あたしの肩も
 負けじと跳ね上がる。

 「 え、えぇ?!どうしたの?! 」

 「 土方さんから召集が掛かったんだ!
  大分急ぎらしくて‥悪い!俺行くな! 」

 早口にそう言ったかと思うと
 再び駆け出したその背中を
 あたしは呆然と見送った。

 その後も、平助だけに留まらず
 次々と隊士達が廊下を駆けて行く。

 「 ほ、ほんとに何があったんだろう? 」

 行き交う隊士のあまりの多さに、
 大事なのではないかという不安が
 高まっていく。

 あたしはそっと部屋を抜け出して
 隊士の波に流されるまま歩を進めた。

 そして、途中で見慣れた
 後ろ姿を見付ける。

 ( あれ?斎藤さん‥ )

 彼は平隊士達と違う方へ
 向かおうとしていて、
 普段よりも険しい表情を
 端正な顔に浮かべている。

 あたしはその様子が気になって、
 隊士達を掻き分け 彼の後を追った。
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