( 新撰組 * 恋情録 )

 キッと目線を上げ、
 片っ端から屯所中の襖を開いていく。

 ( 頼む、居てくれ‥! )

 普段の俺なら先ず玄関へ向かい、
 草履が有るか否かを確認するだろう。

 だが今の俺にはそんな機転を
 利かす余裕は無く、息さえ切れていた。

 「 は‥‥ッ‥ 」

 ――ふと見えた空は、既に夕焼け。
 淡い光が包み込むように
 縁側へと降り注いでいる。

 その光景があまりに穏やかで、
 俺は無意識に足を止めていた。

 そしてそのまま、柱に
 寄り掛かるようにして
 ズルズルと座り込む。

 「 は―‥ 」

 憎たらしい程綺麗な空を これ以上
 直視出来ず、頭を腕に埋めると
 何か柔らかなものが肩に触れた。

 微かに良い香りと、
 くすぐったさを伴って。

 「 ‥? 」










 腕の隙間から見えたのは、伏せられた
 長い睫毛と 乾きかけた涙の跡。
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