( 新撰組 * 恋情録 )

( 第三想起 )


 あたしは 離れるな、という言葉通り
 土方さん達と共に四国屋へと
 向かっていた。

 本当は " 池田屋 " という名前を
 聞いた時にあたしを襲った
 不吉な動悸の正体が
 気になってしょうがなかったけど、
 宛てにならないだろう
 あたしの勘なんかで 土方さん達の
 邪魔をしたくなかったから。

 あたしは黙って土方さんに
 着いて行くことを決めた。

 「 ‥もう少しで四国屋に着く。
  俺はこっちが当たりだと
  践んでる。覚悟を決めておけ 」

 険しい表情で前方を睨む
 土方さんの言葉に、あたしは
 黙って頷いた。

 他の隊士達の顔にも緊張がありありと
 見て取れ、ピリピリとした空気が
 肌を焦がすかのように漂っている。

 ――暫く歩を進めると、前方に
 目的の四国屋が見えてきた。

 「 ‥いやに静かだな 」

 険しい表情を崩さない土方さんの
 呟きが、皆の不安を煽る。

 「 もしかして‥向こうが
      当たりなんじゃねぇか‥? 」

 「 ‥いや、そうとも限らん。敵が
  息を潜めている可能性も捨て切れん 」

 自然と皆の視線が土方さんに集まった。

 「 ‥俺が様子を見て来る。
      お前らは此処で待機してろ 」

 そう言うなり背を向けて
 一人で四国屋に近付こうとする
 土方さんの背中を、あたしは
 慌てて追い掛けた。

 「 土方さん、あたしも行く 」

 彼は一瞬面食らった顔をしたけれど、
 あたしとの約束を思い出したらしく

 「 ‥勝手にしろ 」

 と苦笑を零した。
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