( 新撰組 * 恋情録 )
「 ‥俺より前に出るんじゃねぇぞ 」
土方さんはそう言って、さりげなく
あたしを背に庇ってくれた。
痛い程の静寂が辺りを包み、
空に浮かぶ月は白く、何処か
怪しげにあたし達を照らしている。
( 怖くない、怖くない‥ )
あたしは押し寄せる恐怖と
必死に戦っていた。
着物の袖は 強く握り締め過ぎたせいで
既に皺くちゃ。
心拍数は上昇傾向、
呼吸も段々と荒くなる。
( 怖い‥けど、一緒に闘って
一緒に生きるって決めたんだ‥! )
無理を言って着いて来たのは
あたしなんだから、怖がってちゃ駄目‥
必死にそう言い聞かせるけど
震えは止められなくて、
あたしは自らの体を抱き締めた。
「 ‥ったく 無理しやがって 」
ふっ と笑う声と同時に
あたしの頭には ぽん、と
土方さんの手が乗せられていた。
「 残念だが今更逃がしちゃ
やれねぇな。だから‥‥信じろ 」
―‥震えが、引いてく。
「 信じ、る‥ 」
タッタッタッタッ‥!
あたしの震えが完全に止まった頃、
暗闇に激しい足音が響いた。
「 チッ‥数は多くなさそうだが‥
これ持って少し離れてろ 」
土方さんはあたしに持っていた
提灯を托すと、静かに刀を構えた。