( 新撰組 * 恋情録 )

 それだけ言うと、あたしは
 無理矢理立ち上がり、
 隊士達の待機場所へと向かう
 山崎さんの背中を追い掛けた。

 「 っ‥おい、凜咲!待ちやがれ! 」

 土方さんの、必死の
 抑止さえ振り切って。



 「 や、山崎さん! 」

 山崎さんは、本当の忍みたいに
 足が速い。 追い付くどころか
 彼との距離は開いていくばかり。

 「 ん?君は―‥確か、新しい女中の‥ 」

 幸いなことに一旦足を止めてくれた
 山崎さんに追い付き、軽く息を整える。

 「 霧島凜咲です。あたしも
   池田屋に連れて行って下さい‥! 」

 「 しかし‥ 」

 そもそも単なる女中であるはずの
 あたしがどうしてここに居るのか、とか
 身を守ることは出来るのか、とか
 たくさん聞きたいことがあるんだろう。

 暫く彼は困った顔であたしを
 見つめていたけど、あたしの瞳に宿る
 焦りの色が 尋常ではないことに
 気付いたんだろう。

 「 ‥分かった。但し、俺が君を守って
  やれるのは入口迄だ。そこから先に
  立ち入るつもりならば、自分の身は
  自分で守って貰う。それでも良いか? 」

 「 はい! 」

 渋々ながらも、そう承諾してくれた。



 池田屋へと向かうあたしの頭は
 総司に関わる史実の記憶の事で一杯で、
 土方さんとの約束は、すっかり
 抜け落ちていた―‥
< 66 / 117 >

この作品をシェア

pagetop