( 新撰組 * 恋情録 )
それだけ言うと、あたしは
無理矢理立ち上がり、
隊士達の待機場所へと向かう
山崎さんの背中を追い掛けた。
「 っ‥おい、凜咲!待ちやがれ! 」
土方さんの、必死の
抑止さえ振り切って。
「 や、山崎さん! 」
山崎さんは、本当の忍みたいに
足が速い。 追い付くどころか
彼との距離は開いていくばかり。
「 ん?君は―‥確か、新しい女中の‥ 」
幸いなことに一旦足を止めてくれた
山崎さんに追い付き、軽く息を整える。
「 霧島凜咲です。あたしも
池田屋に連れて行って下さい‥! 」
「 しかし‥ 」
そもそも単なる女中であるはずの
あたしがどうしてここに居るのか、とか
身を守ることは出来るのか、とか
たくさん聞きたいことがあるんだろう。
暫く彼は困った顔であたしを
見つめていたけど、あたしの瞳に宿る
焦りの色が 尋常ではないことに
気付いたんだろう。
「 ‥分かった。但し、俺が君を守って
やれるのは入口迄だ。そこから先に
立ち入るつもりならば、自分の身は
自分で守って貰う。それでも良いか? 」
「 はい! 」
渋々ながらも、そう承諾してくれた。
池田屋へと向かうあたしの頭は
総司に関わる史実の記憶の事で一杯で、
土方さんとの約束は、すっかり
抜け落ちていた―‥