( 新撰組 * 恋情録 )

 [ 土方side ]

 「 離れるなっつったろ―が‥! 」

 あっという間に破られた約束。
 怒りとか心配とか、そういうもんを
 通り越して、呆れさえ覚える。

 ‥さっきあいつは、何て言いやがった?

 「 総司が‥危ないの‥っ! 」

 頭の中で何度反芻してみても、
 その意味が良く分からねぇ。

 確かにあいつは今、" 当たり " である
 池田屋で闘っている。勿論それに
 危険が伴わない訳が無い‥が、

 ( それは‥総司だけに
          言える事じゃねぇ )

 向こうには他にも、近藤さんや
 平助、新八が向かっている。
 あいつらも同じ様に危険な筈だ。

 ましてや総司は 新撰組随一の腕前、
 死んだり大怪我を負ったりという
 失態を起こす可能性は 極めて
 低いだろうと思っているからこそ、
 俺はあいつを近藤さんと共に
 送り込んだんだ。

 だが、先程凜咲の口から出たのは
 紛れも無く総司の名。

 「 くそ、どうなってやがる‥! 」

 新撰組の事は殆ど知らないんじゃ
 なかったのか?

 そんなお前でさえ聞いたことが
 ある程の何かが、これから
 総司の身に起こるってのか‥?!



 ―‥それがどう有ろうと結局、
 今俺に出来る事は一つしかねぇ。



 「 ‥お偉いさん方は、随分
         腰が重てぇと見える 」

 あいつらが必死こいて闘った手柄を、
 後から来た役人共に横取りされちゃ
 堪んねぇからな。

 今夜の事が 遠い未来にまで
 伝わるってんなら―‥尚更だ。
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