( 新撰組 * 恋情録 )
カキン!カキンカキン‥キィンッ!
池田屋は中も外も、剣と剣とが
ぶつかり合う凄まじい音で満ちていた。
「 本当に中に入るのか‥?! 」
表情だけで、危ないから辞めろと
言いたいのがひしひしと伝わって来る。
「 はい‥あたしは大丈夫です。
山崎さんもお気を付けて! 」
「 あっ! 」
だけどあたしはそれを無視して、
入り口に向かって駆け出した。
―‥大丈夫な、訳がなかった。
預かった刀を握る手はガタガタと
震えているし、そもそもあたしに
人を斬れる訳がない。
剣道をかじっているくらいでは、
実戦には対応できない。
それは誰に言われるまでもなく、
自分で分かっていることだった。
だからこそ今、恐怖で震えてる。
だけど―‥
バサッ!
あたしは勢いよく暖簾をくぐった。
止まる訳には、行かないから。
( お願い、間に合って‥! )
総司を守りたい―‥
そんな身の程知らずの願いの為に、
あたしは一生懸命だったんだ。