( 新撰組 * 恋情録 )
「 あ―あ‥弱いなぁ 」
丁度十人目を切り伏せたところで、
俺は正直飽きてしまった。
「 もう少しくらい強い人が居ても
良い筈じゃないかな?仮にも
攘夷を掲げてる訳だし 」
そんなんで大丈夫なのかな。
なんて、いらない心配をしてみたり。
――カキン!
「 お、っと‥? 」
「 ‥戦乱の最中によそ見、
ましてや構えを解くなど―‥
言語道断だ。一番隊組長沖田総司 」
俺は ふぅん、と相手を見つめた。
「 俺の事、知ってるんだ? 」
「 当然だ。華奢な体つきからは
とても想像出来ない剣筋の力強さ。
そして一番の特徴は―‥その素早さ 」
「 へぇ、有名なんだ。嬉しいな 」
心にも無い台詞を吐くと 相手は一旦
後ろに引いて、楽しげに俺を見つめた。
「 構えを解いた状態から、まさか
俺の剣を止めるとはな。正直
想定外だった―‥貴様は化け物か? 」
「 別に。構えを完全に解いた訳じゃ
なかったし‥只単に君が
遅かっただけなんじゃない? 」
「 言いおる‥ 」
お互いにくっくっと
笑い合った数秒後―‥
俺達は同時に目を細めて地を蹴った。
――カキン!
「 貴様と手合わせ出来るとは光栄だな 」
「 俺もだよ、ちょっと暇してたし。
え―と‥君は誰かな 」
「 ‥肥後藩士宮部鼎蔵!貴様の首は、
必ずこの俺が取ってみせる! 」
「 出来るものなら、どうぞ 」
漸く 少しは骨の折れそうな相手が
現れてくれたみたいだ。
「 その人を馬鹿にするような
言い草が気に食わんな‥ッ 」
鍔ぜり合いは平行線。
「 じゃあ、今度は屯所にでも来れば?
一人称が " 私 " で、敬語を
使って話す俺が見られるからさ。
‥ま、君が生きてればの話だけどね 」
俺は一旦引いてから、もう一度
勢い良く間合いを詰めた。