( 新撰組 * 恋情録 )

 「 ‥そ‥‥じ‥‥‥総司っ!! 」

 俺を呼ぶ声にぼんやりと目を覚ませば、
 目の前には泣きながら必死に叫ぶ
 凜咲の顔があった。

 「 総司?! 」

 「 っ‥叫ば、ないで‥頭に響く‥ 」

 壁に吹き飛ばされた時ぶつけた頭が
 今更ガンガン痛む。
 体はぼんやりと熱くて怠い。

 ――俺の体じゃないみたいだ。

 「 ごめ‥っ 」

 「 良いから‥ちょっと大人しく
          しててよ、ね‥っ 」

 無理矢理に体を引き起こせば、
 渇いた咳と共に吐き出された血が
 再び手の平を紅く染めた。

 「 総司‥血‥!! 」

 「 気のせい 」

 「 気のせいなんかじゃ‥っ 」

 「 ‥口の中がちょっと切れただけ 」

 「 嘘つかないで!! 」





 ――ああ、この子は
 知っているんだろうか。

 俺が池田屋で喀血したってことは、
 未来にまで語り継がれている訳?





 「 ‥何それ、格好悪いな俺 」

 「 え‥? 」

 俺、の部分で凜咲が目を見開いて
 首を傾げた。

 あ―あ、俺とした事が‥
 口調を元に戻すの、完全に忘れてたよ。

 「 ま、いっか‥凜咲だし‥ 」

 「 えっ‥どうしたの総司? 」

 「 何でもない‥悪いけど凜咲、俺を‥
  壁際まで、連れて行ってくれるかな 」

 此処だと、俺の血だらけで
 " ばれちゃう " から。

 「 わ、分かった‥ 」

 凜咲は細い腕で俺を支えながら、
 ゆっくりと壁際まで移動した。

 「 ありがと‥ 」

 俺は口元の血を拭い、手の平のそれは
 乱暴に畳に擦り付けた。それから、
 消えそうになる意識を保つため、
 自らの腕を抓る。

 ふと耳を済ませば いつの間にか
 剣戦の音は止み、池田屋は静かに
 真白な月の光を浴びていた。
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