( 新撰組 * 恋情録 )

 「 何泣いてるの 」

 「 ふぇ‥だって‥っ 」

 「 ‥泣き虫 」



 君が泣く必要なんて、何処にあるのさ。
 別に俺、死ぬ訳じゃないんだし。
 笑いなよ、ねぇ。



 ‥どうしてそんなに、哀しい顔するの。



 ねぇ、泣かないでよ。



 小さな願いを込めて、震える手を
 君の頬へ伸ばす。



 「 り‥『 凜咲!総司!何処だ?! 』

 「 土方さん! 」



 ―‥遠ざかる、君の頬。



 目的を見失った右手は途端に力を失い
 ぱたん、と寂しげな音を立てて
 床へと落ちた。



 「 お前ら‥っ 」

 何してやがった、とでも言いたげに
 土足でズカズカと畳を踏み付けながら
 土方さんが近付いて来る。

 「 土方さん!総司が、血―‥ 」





 ( それ以上は言わせないよ? )





 俺はもう一度、君に手を伸ばす。
 今度は、お喋りな口を塞ぐ為に。





 「 ?! 」

 「 ‥ご心配無く。少し、暑さに
    やられてしまっただけですから 」

 「 ‥今 " 血 " って聞こえたのは
        気のせいだってのか? 」

 「 下で耳を切り落とされたんですか?
     私より重傷でしょう、その耳 」

 「 ‥総司、てめぇな‥‥ 」

 「 ひ、じ‥違‥っ 」





 冗談を言いながら凜咲の口を塞ぐ程の
 力は残っていなかったらしく、
 開いてゆく指の隙間から凜咲は
 必死に真実を告げようともがいていた。

 情けないほど弱々しい右手に、
 有りったけ‥最後の力を込めて。





 「 ‥それ以上言うつもりなら
         今度は口で塞ぐよ? 」





 俺は凜咲を ぐっ、と引き寄せた。
 耳元にそんな囁きを落とす為に。

 ―‥これで黙っててくれると
 良いんだけど。

 真っ赤で悔しそうで哀しそうな
 凜咲の顔が、段々とぼやけてゆく。
 それに伴うように俺の意識は
 再び闇へと沈んだ。
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