( 新撰組 * 恋情録 )
[ 土方side ]
総司が意識を失うと
部屋は沈黙に包まれた。
聞こえるのは弱々しく繰り返される、
総司の荒い呼吸のみ。
「 ‥‥‥ 」
凜咲は何を言うでも無く、
泣くでも無く。
ただ黙って唇を噛み締めていた。
声を掛けるのも躊躇われる程の
悲痛な表情で。
それはまるで、知ってはいけない事を
知ってしまった時のような。
それでいて、知ってしまった事を
後悔しているかのような―‥
そんな、表情だった。
僅かに指先を動かす事さえ躊躇われる
沈黙の中、俺は目を伏せて
思考を巡らす。
総司の様子からして、あいつは確実に
只の暑気あたりでは無い。
手掛かりになるのは、凜咲の口から
漏れた " 血 " という単語のみ。
かと言って総司の物とも敵の物とも
つかない 毒々しく黒ずんだ紅は、
そこら中に飛び散っている。
犬の嗅覚でも無ければ、
判別は不可能だろう。
俺は目を細めて 一際目立つ
血溜まりを見つめた。
―‥数にして、二つ。
片方には、腹を斬られたらしい
男が一人沈み込んでいる。
しかしもう一つの血溜まりは、
ただそこに有るだけだった。
確かにその中心には、人が居たらしい
形跡を残しているというのに―‥
( そこの奴は、移動してから
事切れたっつ―事か‥? )
――若しくは総司の血、か。
恐る恐る、荒い呼吸を繰り返す
総司に目をやる。
しかし 外傷はせいぜい
軽い切り傷程度で、大量に出血
している様子は 何度目を凝らしても
見受けられない。