( 新撰組 * 恋情録 )

 ( だったら何だってんだ‥? )

 より深く思考の奥へ のめり込もうと
 していた俺の耳に こほ、と
 小さな咳の音が届く。

 はっと顔を上げれば、総司が僅かに
 顔を歪めていた。

 「 っ‥ 」

 そうだ。考えるのは後で良い。
 先ずはこいつの体調を何とかしねぇと‥

 「 凜咲、総司を運ぶの手伝え 」

 返事も待たずに俺は総司に歩み寄り、
 腰の刀を鞘ごと引き抜いた。

 刀の重みは、意外と馬鹿になんねぇ。

 「 落とすなよ? 」

 俯いている凜咲にそれを手渡すと、
 俺は総司を背に負ぶった。

 「 ‥軽 」

 思わず 女子かてめぇは、と
 言いたくなる程総司の体は軽かったが、
 意識を失ってぐったりとした
 体を支えるのは 中々骨が折れる。

 慎重に階段を下っていると、
 後ろから控えめな凜咲の声がした。

 「 土方さん、聞かないの‥? 」

 「 総司に何があったのか、か? 」

 小さく頷く凜咲の顔は、やはり
 悲痛に歪んでいる。

 「 ‥今は聞かねぇよ。先ずはこいつの
   命を繋がなきゃなんねぇからな。 」





 ――俺は正直、分かんねぇから。
 お前が何に悩まされて
 そんなに悲痛な顔をすんのか。

 俺が今のお前に掛けてやれる
 言葉なんて、ねぇと思うから。





 「 だから、待ってやる。‥自分で
  決着つけろ。約束破った説教も
  その時たっぷりしてやるからよ 」

 「 ! 」

 俺が思いもかけない事を言ったからか
 それとも約束を破った事実を
 思い出したからか。

 息を呑んだ凜咲に苦笑を零し
 俺は更に階段を下る。

 総司を負ぶった背中が、
 異常に熱かった。

            ・・→ 凜咲side
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