( 新撰組 * 恋情録 )
だけど、あたしだけは知ってる。
池田屋での喀血が尾を引いて、
後々どのような事態を引き起こすか―‥
それは、あまりにも有名過ぎたんだ。
( どうしてあたし、こんな
ことだけ知ってるのかな‥ )
土方さんの、新撰組の役に立つような
情報は、何一つ知らないくせに。
( どうして総司の‥っ‥! )
「 そう、ですか‥ 」
山南さんの 僅かに安堵が滲む声で
あたしは我に返る。
「 ああ 」
顔を上げると、土方さんが
あたしを手招いた。
「 総司を寝かすの、手伝え 」
近寄れば 頭にぽん、と手を乗せる。
これは土方さんの癖らしく、
される度にあたしは何となく落ち着く。
―‥ありがとう、土方さん。
( 総司が目を覚ましたら、話そう )
決着を、付けよう。
自分の気持ちに。
あたしは土方さんに背中を押される形で
覚悟を決めると、屯所の門を潜った。