( 新撰組 * 恋情録 )

 「 え?あ、はい‥ 」

 出鼻をくじかれたあたしは生返事をし、
 棚の上のお椀に手を伸ばす。

 ―‥そこで生じた、新たな疑問。

 お椀の置かれた棚は山南さんの
 目線辺りに有り、あたしよりも
 背の高い山南さんの方が
 お椀を取るのは簡単のような気がする。

 ( どうして自分で取らないんだろう? )

 とは思ったものの、まさか
 自分で取って下さい、などと
 言えるはずも無い。

 軽く背伸びをしてお椀を腕に抱え、
 山南さんに差し出す。

 「 どうぞ‥? 」

 「 ええ、ありがとうございます。
  申し訳ありませんが、そこに
  置いて頂いてもよろしいですか? 」

 首を傾げながら、指定された木製の机に
 お椀を置いていく。

 と、山南さんは静かなト―ンで
 語り始めた。



 「 申し訳ありません。私の左腕はもう
  お椀を持つ事すら出来ないのです 」



 自嘲気味な響きに恐る恐る振り向けば、
 山南さんは皮肉るような笑みを
 浮かべて、自分の左手の平を
 見つめていた。
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