( 新撰組 * 恋情録 )

 「 え‥? 」

 山南さんの左腕をじっと見つめると、
 彼は苦笑しながら袖を捲り上げた。

 「 あ‥ 」

 袖で隠されていた部分が露になると、
 そこには見るからに痛々しい傷痕。

 「 神経が傷付いてしまい、最早
  まともに動かす事も出来ないのです 」

 自嘲気味な響きは、終わらない。

 ――山南さんは言う。

 「 私はもう、戦えないんですよ 」

 片手で剣を握る事は出来ないと。
 剣を握る事の出来ない私は、
 新撰組に要らないと。

 「 沖田くんが必死に戦っている時も、
  お荷物である私は屯所に置き去り。
  ぼろぼろになった彼を見て、無責任に
  土方くんを問い詰める事くらいしか
  無能な私には出来ないんですよ‥! 」

 知的に整った山南さんの顔が、
 悔しげに歪む。

 「 山南、さん‥ 」

 いつも冷静かつ穏やかな彼の
 豹変振りに、あたしはただ
 驚く事しか出来ない。



 ―‥張り詰めた空気が、ふと緩んだ。



 「 すみません、君にするような
  話ではありませんでしたね。
  ‥‥‥どうか、忘れて下さい 」

 無理矢理に作られた笑みが、
 胸を締め付ける。

 「 食事の支度を続けましょう。
  皆さんにお出しする前に
  冷めてしまっては申し訳無いですし 」

 くつくつと場違いに美味しそうな
 音を出す味噌汁をお玉杓子で
 掬いながら、山南さんは
 もう一度、苦い顔で笑った。
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