( 新撰組 * 恋情録 )
「 ああ。つかお前の部屋でもあるん
だから、態々断る必要もねぇだろ 」
苦笑混じりにそう応えると、土方さんは
ほら、と襖を開けてくれた。
あたしが中に入ると、彼は襖を閉め
布団に仰向けに寝転びながら、顔だけを
こちらへ向けた。
「 もう寝んのか? 」
今日の分の仕事は片付いたらしく、
珍しく顔から張り詰めた空気を消して
淡く微笑む土方さん。
彼の束の間の休息を壊すのは
すごく気が引けたけれど。
「 じゃなくて、えっと‥質問が 」
心の中で謝りつつ、布団の傍に
ちょこんと膝をつく。
「 質問? 」
「 うん。総司と―‥山南さんの事 」
「 ‥‥ 」
あたしの口調から真剣な空気を
感じ取ったのか、土方さんは薄く
目を細めて布団から起き上がった。
「 山南さんって、左腕に怪我してる? 」
「 ‥ああ 」
「 怪我したのっていつ頃? 」
「 半年程前だな 」
―‥土方さんの話によれば。
将軍徳川家茂を警護するため
大阪に滞在していた所、 「 岩城升屋 」
という呉服商に不逞浪士数名が
押し入る事件が起き、山南さんは
土方さんと共に岩城升屋に駆けつけ、
激戦の末に不逞浪士を撃退したらしい。
その際に山南さんは左腕を負傷し、
剣を握れなくなってしまったとか。