( 新撰組 * 恋情録 )
噂をすれば、何とやら。土方さんが
話を終えると同時、廊下の軋む音と
山南さんの声が聞こえ、それは次第に
近付いて来る。あたし達は何故か
息を潜め、会話に耳を傾けた。
「 何故沖田くんをもっと良い医者に
見せないんです?!まだ目を覚まさない
なんて、余程の重症でしょう?! 」
「 落ち着いてくれ山南くん。総司を
良い医者に見せたいという気持ちは
皆同じだ‥!もう少しだけ、待っては
くれないか?俺も今知人に
掛け合ってみているところなんだ‥ 」
「 しかし、それでは‥ 」
遅いんですよ、と彼は続ける。
「 早くしないと、寝たきりである彼は
どんどん体力を失ってしまう‥! 」
血を吐くような、声で。
「 そうしたら、彼は!私のように‥剣を
握れなくなってしまうかもしれない
のですよ?!それでも良いんですか! 」
悲痛な表情が、目に見えるようだった。
( 山南、さん‥ )
声は遠ざかって行く。
悲痛な響きだけを、その場に残して。