( 新撰組 * 恋情録 )
( 早く目が覚めないと体力が落ちて
総司も山南さんと同じように、剣を
握れなくなってしまう。そして‥ )
新撰組に、必要とされない
存在になってしまう―‥
それが、彼の呟きに隠された意味。
「 ‥山南さんは、総司を弟みてぇに
可愛がってるからな‥
余計に、心配なんだろ 」
沈んだ空気の中、土方さんが不意に
口を開く。
「 弟、みたいに‥ 」
そういえば、あの二人の口調は、
まるで兄弟みたいに似ている。
一人称が [ 私 ] で、敬語で、丁寧で‥
( ―‥?! )
――血の紅と共に、池田屋での
記憶が蘇ってくる。
あの時は気が動転してて、
あまり深く考える事もなかったけど‥
確かにあの夜、総司は―‥
『 ‥何それ、格好悪いな俺 』
( 一人称が、[ 私 ] じゃない‥?! )
『 ま、いっか‥凜咲だし‥ 』
『 ありがと‥ 』
――口調も、何処か砕けてた気がする。
「 どういう、事―‥? 」
ぐるぐる、ぐるぐる。
新たな疑問に頭が回る。目も回る。
「 おい‥? 」
土方さんの声が、遠くに聞こえて。
「 土方さん‥ 」
目の前が暗く霞む。
( それは、後で総司に聞こう‥ )
完全に暗くなってしまう前に、早く。
「 山南さんは、総司は―‥ 」
早く、聞かなきゃ。
一番大切なこと。一番聞きたいこと。
「 例え剣が握れなくても、
要らなくなんか、ないよね―‥‥? 」
―――答えを聞くことの無いまま、
あたしの意識はそこでぷつりと
途絶えてしまった。