( 新撰組 * 恋情録 )

 「 ‥ごめん、なさい 」

 上手く回らない呂律で謝ると、

 「 ‥そんな素直に謝られると、
       なんか調子狂うなあ‥‥ 」

 総司は困ったように頭を掻いて、
 苦笑しながら言う。

 「 ‥俺も、ごめん。そもそも
    無茶させたのって俺なわけだし 」

 ごめんね、ともう一度言いながら、
 総司はあたしの頭を撫でた。



 「 う―ん‥まだ熱いなあ 」

 布を冷水に浸してあたしの頭に
 乗せる総司を見ながら、
 さっきまでと立場が真逆だ‥
 なんて考える。



 ( ―‥あれ?さっき? )



 「 あの、総司‥? 」

 「 ん? 」

 「 今日って何日? 」



 ―‥告げられた数字は、あたしの
 最後の記憶から3日以上後のもの。

 「 えぇ?!あたし3日以上寝てたの‥?! 」

 「 みたいだね。俺も昨日起きたから
  良く知らないけど‥体力落ちるよ? 」

 「 ! 」



 総司は冗談みたいな口調だったけど、
 あたしはその台詞に敏感に反応した。





 「 総司、体力落ちてない‥?
       刀、ちゃんと握れる‥? 」





 ―――ほんの一瞬。

 総司の表情が固まり、険しく歪んだ。





 「 ‥当たり前でしょ 」

 それは、本当に一瞬。

 一瞬の後、総司は完璧な笑顔を
 浮かべてそう言った。

 だけど、完璧で有るが故にその笑顔は。





 脆くて、弱くて、すぐに
 崩れてしまいそうな―‥

 偽物の笑顔に見えたんだ。





 「 ‥ちょっと水替えて来るから、
       良い子で待ってなよね? 」





 ( 総、司―‥ )





 今にも震え出しそうな総司の背中が
 襖の向こうに消えても、あたしは暫く
 視線をずらすことが出来なかった。
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