今でもキミを


「晴れやかな青空のこのよき日…」


長い長い校長の話を、
あたしは右から左に受け流し
愛夢の隣でコクンコクンと首を縦に振っていた。

「ちょっと楓!起きなさいよ~っ!!」

愛夢が先生に気付かれないよう耳打ちをする。
そんなこともおかまいなしに

「もうちょっと~…」

と眠り続けるあたし。
愛夢は呆れ気味にため息をつき正面を向いた。

寝ている間も式は着々と進められる。
理事長挨拶…
担任紹介…
新入生代表挨拶…
あたしはその間一回も起きることはなかった。
まわりの人はみんな真面目さんだから
入学式で寝るなんて考えつかない。
だから一人寝ていたあたしは相当注目を浴びていただろう。


「在校生歓迎の言葉」

重々とした空気の中
後ろに座っている在校生が最も注目する在校生の挨拶。
司会の先生が発した次の言葉に
あたしは目をバチッと開け、
カクンと折っていた首を勢いよくおこした。


「桜ケ丘高校生徒会長 三笠龍輝」


後ろの先輩たちがざわつき始める。
あたしの心臓もざわつき始める。
隣に座っていた愛夢があたしを
「あれって…」と驚いた様子であたしを覗く。

サラサラの黒い髪。
高い身長に似合うブレザー。
優しそうな目。


「三笠…先輩だ…」


あたしの視界が涙でぼんやり霞む。
また会えた嬉しさ。
頑張ってよかった。そんな思いでいっぱいになった。


「新入生のみなさん、桜ケ丘高校へようこそ♪」


ステージに立つ三笠先輩の思いがけない一言に
静かだった一年生もざわつき始める。

「楓よかったじゃん!」

愛夢があたしに笑いかける。
あたしは開いた口が塞がらなかった。
あの時の先輩は
ちょっとチャラチャラしてて、
でもなんか清楚な感じで、
優しかったし頭もいいって後々聞いたから
生徒会長だと予想つかないこともない。
けど…ほんとに生徒会長だったなんて…
あたしは状況がようやくつかめてきて急に顔が赤くなった。
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