天国からのメール
「え?何でってお前……優勝しなきゃ、ここまで来た意味ねぇじゃねぇか」


「お前、それ本気で言ってんのか?」


竜太の言葉が、聡には理解できなかった。


「本気に決まってんだろ。優勝できなきゃ、今まで何の為に」


その瞬間、聡の頬をパンと叩く竜太。


「痛っ……何すんだよ、竜太!」


「頭冷やせ。俺たち、何の為にバンドやってんだよ?」


「何の為って……」


「お客さんに、伝える為じゃねぇのか?」


「え……」


「俺らの音楽を聴いて、少しでも楽しんでもらえたらって……そうじゃねぇのか?」


「……」


「そして何より……俺たちが、楽しむ為なんじゃねぇのか?」


何も言い返せない聡。


「……確かに、優勝することは大事だ。俺たちの将来にも関わってくる。俺だって、死ぬほど優勝してぇ。でも優勝だけに捕らわれて、何も見えなくなるのは嫌なんだよ。優勝以前に……楽しもうぜ、今の状況を。こんなにも大勢の人に見てもらえるんだよ、楽しまなきゃ損だろ。それが、ロックなんじゃねぇのか。今のお前……なんか、どっかの頭が固いプロデューサーみたいだぜ」


「あ……」


そう声を漏らすと、固まる聡。


「執着しすぎんなよ、バーカ。そんなマインドで、心をつかめると思ってんのか。頭治ったら、また戻って来い」


そう言って、再び客席に戻る竜太。


一人、取り残される聡。
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