夢中遊泳、その先に君
漢字で「洋壱」と書く俺の名前は、一目で正しく読まれることが難しかった。
ヨウイチだと、初対面の人にはほとんどそう思われていた。
ヒロイチ、と答えると、アカリは笑った。
考えてたのと同じ、当たりだ、と。
とても嬉しそうに、笑った。
一日一日、重ねる会話は少しずつ、俺とアカリを親しくしていった。
アカリと俺は、根本的なところでよく似ていた。
例えば好きなものを最初に一口食べ、あとは全部最後に残すところだったり。
本の気に入ったページだけ何回も読みなおしたり。
授業中に、シャーペンを持ったまま首を右に傾けて器用に居眠りをするところだったり。
そういう些細なところが。
「明加さんの下の名前は、わかりやすい」
名前の読み方を聞かれた日。俺の最初の返しは、たしかそういった言葉だったように思う。
漢字じゃなく、アカリ。そのままのカタカナの名前。
「小学生でも読めちゃうよね、つまんないでしょ?」
アカリはいたずらっぽく、そう言って顔をほころばせたのだった。
つまんなくなんかなかった。
明里、でもなく、朱莉、でもない、アカリ。
そのカタカナこそが、俺はアカリにとてもふさわしいと思った。