夢中遊泳、その先に君
「アカリ」
夏服に変わったばかりの頃。本当にふとした日常の、授業と授業の中間休み。
俺は口を滑らせて、ついうっかり「アカリ」と呼び捨てで呼んでしまった。
表ではずっと「明加さん」で、心の中で呼んでいただけだったのに。
しまった、と思った瞬間顔が赤くなるのがわかった。恥ずかしくて、両耳から火が吹き出るかと思った。
アカリは一度大きく目を見開いた。
でもすぐに、「ヒロイチ」と俺を呼び返してくれたのだ。「真鍋」でなく、「ヒロイチ」。優しく笑いながら。
俺は入学当初から好きで、それからもずっと好きで、この時にはもう好きで好きで好きで好きで仕方がないくらい好きだった。アカリのことが。
「お前、明加のこと好きだろ」
夏服が肌に張り付くような気候になった頃だった。
無愛想な面の下に完璧に封じ込めているはずの思いを、友人に言い当てられてしまった。
明加のこと好きだろ。なんてことない風に発された言葉。
その言葉が脳みその中心に突き刺さったみたいに、ひどく俺の鼓動を速めた。