夢中遊泳、その先に君

今までの寝不足のレベルじゃない。これは明らかに、顔色が悪い。


「ほんとに眠れない?」
「…うん。一睡もしてない」
「医者に行く?」


むっと口を噤んで、ヒロイチは黙りこくる。


「病院は、嫌なの?」
「……」
「それなら、」


それなら。わたしが弾みをつけて言った言葉に、ヒロイチの肩が弾んだ。

揺れた瞳は、どんよりと雲がたゆたう空のように濁っている。


「それなら、探してみようか。眠れる方法」


うん、ではなかった。ヒロイチはクン、と。

頭をわたしの手のひらに押し付けて、返事をした。


その日の放課後から、わたしたちは二人、眠れる方法を模索した。

最初に試したものは、定番のホットミルク。

温めた牛乳には「トリプトファン」っていう成分があって、「鎮静効果」っていう効果があるんだって。詳しい説明は忘れてしまったけれど。

一緒に飲んで、わたしとヒロイチはソファに寄りかかっていたのだけれど、わたしだけが先に微睡んでしまって慌てて首を振ったのだった。

それから他にも。

ラベンダーには脳や体をリラックスさせる効能があるんだって。

だからラベンダーのポプリは買ってヒロイチの部屋に吊した。保険の意味で3つも。

3つはそれぞれ自己主張して、部屋の中は甘ったるい匂いでむせ返った。

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