夢中遊泳、その先に君
ヒロイチ。ヒロイチ。でもね、違うの。聞いて。
わたし、ヒロイチが大好きよ。
「…目を、つむってみたら。眠れなくても」
「……」
「大丈夫。わたし、ずっと隣にいるから」
ぽん、ぽん、と肩を叩きながら、子守歌を歌った。
昔母が歌ってくれた、記憶にもおぼろげなものだったけれど、意外としっかり覚えているものなんだなと思った。
ポン、ポン、ポン、ポン。
ゆっくりと間を持ったリズムで触れ合う、わたしの手のひらとヒロイチの肩。
ポン。そのひとつひとつに、おまじないをかける。
ヒロイチが穏やかな気持ちになれますように。
ヒロイチから不安がなくなりますように。
ヒロイチがいい夢を見れますように。
ヒロイチが、眠れますように。
「…眠れねぇよ」
ヒロイチが寝返りをうった。
わたしの方へと向けられた顔は、今にも泣き出しそうなものだった。
「……夢、見たんだ」
驚いて手を止めたわたしに、ヒロイチは掠れた声で言う。
「…アカリが……死んじゃう夢」
ヒロイチのクマの色が、ちょうど夜の闇の色と重なった。
わたしの腕だけがぼんやりと白い。
この世でたった一人だけ、ひとつだけ、自然に従わずに浮かんでいるみたいに。